初めての傘
高校2年の夏の終わり、夕立が突然二人を襲った。部活を終えて帰ろうとしていた健二と美咲は、校舎の軒下で雨宿りをしていた。
「すごい雨だな…こんなに降るなんて聞いてないぞ。」
健二がぼやくと、美咲は笑いながら濡れた制服の袖を絞った。
「まあ、夏だから仕方ないよね。でも、家までずぶ濡れで帰るのはちょっと嫌だなぁ。」
健二はその言葉に少し焦り、鞄を漁った。中から出てきたのは、半ば忘れていた折り畳み傘だった。
「美咲、これ使えよ。俺は走って帰るから。」
そう言って差し出した傘に、美咲は驚いたように目を見開いた。
「え、健二はどうするの?走って帰るって、こんな雨の中?」
「平気だよ。俺、雨は嫌いじゃないし。」
それは、半分本音で半分嘘だった。実際は、美咲が困っている姿を見て放っておけなかっただけだ。
「でも…二人で一緒に入ればいいじゃない。」
美咲がそう言った瞬間、健二の心臓が大きく跳ねた。
「え、でも狭いし。」
「平気だよ。そんなに大きくないんだから。」
結局、二人は一緒に傘に入ることになった。狭い傘の下、肩が少し触れるたびに健二は緊張していたが、美咲は何事もないように笑っていた。
「健二って意外と優しいんだね。こういうとき頼りになるんだ。」
「そ、そうかな…。まぁ、たまたまだよ。」
健二は赤くなった顔を雨のせいにして下を向いた。
家の近くまで来ると、美咲がふと足を止めた。
「健二、今日はありがとう。こうやって二人で歩けるの、なんだか特別だった。」
「特別…?」
彼女の言葉に健二はドキッとしながら、何も返せなかった。
「うん、またこういう日があったらいいなって思う。」
美咲はそう言うと、小さく笑い、傘を返して家に駆け込んだ。その後ろ姿を見送る健二の心には、甘酸っぱさと少しの切なさが残っていた。
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思い出の傘
そのエピソードを、20年後の二人がふと思い出す。ある雨の日、健二が古びた折り畳み傘を見つけて言った。
「これ、覚えてるか?あの日の傘だよ。」
「え…まだ持ってたの?」
美咲は驚き、そして微笑んだ。
「もちろんさ。これがあったから、あの日君と一緒に帰れたんだもんな。」
健二の言葉に、美咲はそっと彼の手を握り、あの甘酸っぱい記憶を胸に、二人で笑い合った